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『木の教え』 塩野 米松 (過去記事 祝!文庫化)
![]() | 木の教え (ちくま文庫) (2010/06/09) 塩野 米松 商品詳細を見る |
一冊の本でいろいろなことを考えさせられた『木の教え』。最近文庫化されたことを知り、もう一度紹介することにしました。主人公は木、そして物語ではなくいわゆる説明文であるのに、なぜか心を動かされ、じわじわと静かな感動のようなものが迫ってきます。本屋さんで見かけたら、ぜひ手に取ってご覧になってみて下さい。
以下は、過去の紹介文です。
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木は本当にいろいろなことを教えてくれるんだなぁと、感心してしまった。この一冊で、木の性質、伝統や技術の伝承のこと、環境問題、果ては教育問題までを知り、考えることになる。子供でも読める平易な文章に込められている情報の数々は大変価値あるものだ。
出だしの「木は二つの命を持っています。」が、全編を流れるテーマである。植物として生えている木は誰もが知っているが、
「木は伐り倒された後に木材としてのいのちを得ます。」
と書かれると、伐られていのちを得る?と不思議に感じる。しかし、読んでいくうちに、この「木材としてのいのち」が非常に大切なものであることがわかる。
木は木材になっても、生き物のように伸びたり縮んだりする。生えていた時の条件で、その動きが違う。そうした木の性質を生かして建物を造ると、長持ちがして修繕もしやすくなるという。そうして、樹齢千年の木を木材として千年利用できれば、建物を建て替えねばならなくなった時にちょうど樹齢千年の木が育っているから、資源としての木を失うことはないという理屈になる。
この本には、木の性質とそれを生かして建物や船を造る様々な技術が、とてもわかりやすく解説されている。今日、私のような素人にもわかるように解明されている技術は、昔の人々が、いろいろと試しては、木の種類、木の部分、向き、伐り方、削り方など、工夫に工夫を重ねて、一番良い方法を編み出してきたものだ。これが伝統である。老船大工が接着剤を使わずに伝統的な手法で舟を造り続けている理由として次の3つを揚げた。
・発明されてから数年しか経っていない接着剤より、何代にもわたって確認されてきた技術は、こうすれば安全という確証がある。(経験による安全の確証)
・新しいものを追いかけて、木を生かす技術が消えて忘れ去られてしまったら、後になって昔の方が良かったと言っても遅い。(技術の伝承)
・解体修理ができる。(資源の有効利用)
なるほど、伝統的なやり方の方が良いように思える。しかし現実は、木の癖も何も関係なく、木材は機械で裁断され、木の性質で建物を組むなどという手間はかけず、壊れれば修繕せずに解体してしまうようになってしまった。全ては効率重視のためだ。
このまま、木の性質をよく見て物を作る人達が消えてしまってもいいのだろうか?木材としてのいのちの与えられ方を知ってしまうと、この技術を守らなければならないという思いに駆られる。
伝統には説得力がある。伝統は一朝一夕にはできない。簡単に無くしてしまって良いものだろうか?
オーストラリア人から「日本人は木と紙でできた家に住んでいるんでしょ。」と言われ、ちょっと馬鹿にされたようで嫌な気持ちだった。だけど日本には、若い国オーストラリアの及ばない古くからの伝統と、不器用なオージーにはきっとできない技術があるのだ。今度同じことを言われたら、胸を張って「そうよ。すごいでしょう?」と答えよう。
※この本に感銘を受け、次のような本も読みました。こちらもまた素晴らしい内容でした。
『木のいのち木のこころ-天・地・人』西岡常一・小川三夫・塩野米松
2件のコメント
[C4005] 参考になりました。
- 2010-10-22
- 編集
[C4006] >渡部さん
はじめまして。
ご訪問有難うございます。
HPに伺いましたら、木材の専門家でいらしたのですね。
そんな方に、この本の紹介文を読んでいただけるなんて光栄です。
今度、塩野米松さんの講演に参ります。できたらここでまた紹介したいと思っています。
ご訪問有難うございます。
HPに伺いましたら、木材の専門家でいらしたのですね。
そんな方に、この本の紹介文を読んでいただけるなんて光栄です。
今度、塩野米松さんの講演に参ります。できたらここでまた紹介したいと思っています。
- 2010-10-22
- 編集
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とても参考になりました。
購入してみたいと思います。