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『ほたる館物語 3』 あさの あつこ
![]() | ほたる館物語 3 (3) (ピュアフル文庫 あ 1-6) (2007/05) あさの あつこ 商品詳細を見る |
『ほたる館物語』の三巻目は、ほたる館に山菜などを売りに来る「山ばあさん」が登場し、戦争にまつわる思い出話が主題となる。私の好みとしては、このシリーズは、ほたる館が中心の日常を描いた作品であって欲しかったので、やや話が広がりすぎた気がする。しかし、この巻にもやはり、大変共感できる部分があるので紹介したいと思う。
ほたる館の一人娘である小学生の一子は、自分の担当の仕事である庭仕事をしていた。友人の柳井くんに、子供なのに仕事の段取りができてすごいと言われた一子は、突然不機嫌になる。「子供なのに」「小学生なのに」という言葉に、カチンと来るのだ。
ほたる館は、ずっと人手不足で大変なのだ。自分が一人前とはいかなくても、半人前以上の働きをして、けっこう助けている、と思っている。
それに、一生懸命働いたら、お年玉にちゃんと帰ってくる。去年からは、お年玉の袋とは別に、働き賃の入った白い封筒を渡して貰えるようになった。おばあちゃんは、子供だからといって金額をおさえたり、へんにたくさんくれたりしない。一子のした仕事だけをきちんと見て、その仕事に見合っただけの賃金をくれる。大人と同じあつかいだ。だから、がんばる。
子供あつかいをせず大人と同じ物差しで測って貰うというのが、「働き手」としての誇りの源だ。その物差しを適用した「仕事に見合っただけの賃金」は、何と尊いものだろう。同じお金でも、お小遣いとは全く違うものなのだ。
我が家でもそうだった。幼い頃は、家業の手伝いをしても真似事のようなものだから、皆からの「ありがとう。」の言葉だけがご褒美だ。それだけでも、役に立ったような気分になり嬉しかった。「働き賃」が貰えるのは、仕事を覚え、私がいなければ誰か人を雇わなければならなくなるくらい、質・量ともにこなせるようになってからだった。
以前私は、家庭内のお手伝いに対してお金を支払うことへの疑問を書いた。それは、家族の助け合いと商売上のきっちりした金銭勘定とは区別するべきだし、その二つには相容れないものがあるという感覚を持っていたからかもしれない。
ほたる館でアルバイトをすることになった柳井くんには、その辺りをきっちりわかっておいて貰わなあかんと、一子は柳井くんにこう発破をかける。
「柳井くんも、ちゃんとアルバイト料もらうんやろ。子どもやからなんてこというてたらあかんで。お金もろうたら、下働きでもプロなんやから」
最近は小学校でも、「経済を学ぶ」といって株の話をしたりするらしい。しかし、経済の基本は「自分の働きに見合ったお金をもらう」ことではないだろうか。
前回、『ほたる館物語2』の記事には、個人商店や自営業が減っているというコメントをいくつか頂いた。子供のうちから、「働き手」としてのプロ意識を身につける機会は、今はあまり無いのかもしれない。そうであれば尚更、初等教育では「汗水垂らして働く」ことの大切さを教える方が大事なのではないだろうか。
子供の頃から、楽して儲けることばかりを夢見るようになっては困るし、「経済」というとマクロのことしかイメージがわかず、自分が働くことに結びつかないのも困る。「働くこと」抜きに「お金のこと」を教えるのは何かが違うと思うのだ。
※これまでに紹介した『ほたる館物語』シリーズ
『ほたる館物語1』
『ほたる館物語2』
4件のコメント
[C3087] 代価と差益
- 2007-12-05
- 編集
[C3088] >小楠さん
>このような利益の得方の考えが主流になってしまうと、世界に誇る日本の商品開発技術がすたれてしまうでしょう。
全く同感です。今の日本は、もの作りの仕事を、金融関係の仕事より下に見ているようなところがありますよね。日本の得意なことをきちんと残していかないと、世界恐慌など、いざとなったときに、食べていく糧がなくなると思うのですが・・・。
>子供たちには勤労の尊いことを根本に教えるべきですね。
これも同感です。楽して儲けたることや格好いい仕事ばかり夢見つづけて、結局無職などということにならぬよう、働くことそのものが尊いということを知って欲しいです。
全く同感です。今の日本は、もの作りの仕事を、金融関係の仕事より下に見ているようなところがありますよね。日本の得意なことをきちんと残していかないと、世界恐慌など、いざとなったときに、食べていく糧がなくなると思うのですが・・・。
>子供たちには勤労の尊いことを根本に教えるべきですね。
これも同感です。楽して儲けたることや格好いい仕事ばかり夢見つづけて、結局無職などということにならぬよう、働くことそのものが尊いということを知って欲しいです。
- 2007-12-05
- 編集
[C3101]
本当にその通りだねえ
デイトレーダーやら○○ファンドがもてはやされる最近の風潮
常々苦々しく思っていました
お金は株を買って儲けるものじゃなく働いて稼ぐもの
素人は相場なんかに手を出してはいけない
楽して稼いだお金は信用できない
それが日本人の常識だったと思うのです
なぜそういうことこそ学校で教えないんだろう?
デイトレーダーやら○○ファンドがもてはやされる最近の風潮
常々苦々しく思っていました
お金は株を買って儲けるものじゃなく働いて稼ぐもの
素人は相場なんかに手を出してはいけない
楽して稼いだお金は信用できない
それが日本人の常識だったと思うのです
なぜそういうことこそ学校で教えないんだろう?
- 2007-12-09
- 編集
[C3106] >dさん
はじめまして。ご訪問とコメントありがとうございます。
>素人は相場なんかに手を出してはいけない
と思っていましたが、最近の風潮は違いますよね。
昔に比べて、日経新聞の購読が増えているそうですが、それも株偏重の経済観念が広まっているからのような気がします。
「日本人の常識」はどこへ行ってしまったのでしょうね。
>素人は相場なんかに手を出してはいけない
と思っていましたが、最近の風潮は違いますよね。
昔に比べて、日経新聞の購読が増えているそうですが、それも株偏重の経済観念が広まっているからのような気がします。
「日本人の常識」はどこへ行ってしまったのでしょうね。
- 2007-12-09
- 編集
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[T413] 教育の目的とは何か
教育問題を考えるとき、私は決まって「教育の目的とは本来何なのだ」という疑問にぶつかります。決しておろそかにできないことなのに、教育って何が目的なんだろうと考えます。
そしてそれが、私の将来の夢につながっていくことになります。
教育というのは受験のために...
- 2007-12-05
- 発信元 : 教育一考
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この締めの言葉は現代にぴったりですね。
商品やサービスには必ず労働の対価が含まれていると思うのですが、日本の開国前後から、外国人は銀などの為替差益をうまく利用して、大儲けしたようです。当時の日本人が海外での銀の相場にうといことを利用してでしょう。
このような利益の得方の考えが主流になってしまうと、世界に誇る日本の商品開発技術がすたれてしまうでしょう。
子供たちには勤労の尊いことを根本に教えるべきですね。