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『三陸海岸大津波』 吉村 昭

三陸海岸大津波 (文春文庫)三陸海岸大津波 (文春文庫)
(2004/03/12)
吉村 昭

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東日本大震災が起きて以来、人々の間では、不安から様々なうわさ話が飛び交い、また原発問題に関しては、故意に恐怖を煽ったり、または根拠もなく大丈夫だと言ったり、どれが正しいのかわからない情報が溢れている。
「事実はどうなのか。」今、私たちが一番知りたいのは「事実」である。
吉村昭氏の『三陸海岸大津波』は、今回と同じ三陸で起きた津波をテーマにしているというだけでなく、その時々の「事実」だけを丹念に掘り起こした作品だということから、多くの方に一読をお勧めしたい。

自然災害は繰り返される。それが毎年とか数年おきなら、常日頃対策を取っており、被害も最小限に抑えることができる。しかし何十年、何百年おきにしか来ない災害だと、人々は日常の便利さを優先させて、面倒な防災対策を怠ったり、危険な場所での居住や就労を行うようになってくる。それを防ぐには

残る唯一の方法は人間がもう少し過去の記録を忘れないように努力するほかはないであろう。(『津波と人間』寺田寅彦)

吉村昭氏の作品は、全般的に記録的な要素が多いが、この『三陸海岸大津波』では、想像して書いた箇所も物語化するために作り出した会話もない。「記録文学、」いや、もしかすると「文学」も余計で「記録」といった方がよいような内容になっている。
津波についての数値的な記録、公文書、当時の記者が取材した記録や絵、子供たちの作文等の膨大な資料を、各地区の役所や図書館などをまわって集め、また過去の津波の経験者に取材した言葉が、並べられている。

三陸地方には江戸時代に20回近い津波が襲っていたことや、昭和8年の津波では津波の襲ってくる様子が地域ごとに報告されていることには、こんな記録が有ったのかと驚かされ、津波が起こった直後からの自治体の動きの機敏さを知り、指揮命令系統がしっかりしていたのだろうと感心する。
しかし何と言っても印象に残るのは、津波体験の記録である。津波に流されながら生還した人の体験談、子供の作文に残るあわてた避難の様子。親兄弟がバラバラに逃げ、一方は助かり他方は帰らぬ人となる。家族が「死んだ」と観念した瞬間、孤児になった人のその後の生き方・・・。東日本の震災では、まだ生々しく、当事者たちにはとても訊けないようなことが、ここには記録されている。

この記録によって、私たち被災していない者は、当事者たちの今は報道されない体験や思いを僅かでも知ることができる。
またこれから後に三陸に住み続ける人には、必ずまたやってくる津波に備える術を確認することができる。

ニュースを見ても、長老の忠告を聞いて堤防や水門や道を造ったり、石碑に基づき家を建てる場所を制限したり、地域の習わしから避難訓練を欠かさなかったり、過去の経験に敬意を払って救われた命がある。
吉村氏が、明治の頃の古い記録や、地域ごとに分散していた記録を、一つにまとめ、誰もが一度に読めるようにした功績は大きい。

この記録を、今だけではなく、長く読み継ぐことが、島国であり地震大国でもある日本人に必要なことではないだろうか。
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