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『衆愚の時代』 楡 周平

衆愚の時代 (新潮新書)衆愚の時代 (新潮新書)
(2010/03)
楡 周平

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第一章を読んで、私は涙が出そうになった。悲しい物語や感動の逸話が書いてあるわけではない。そこには、極当たり前の常識が書かれているだけである。しかしその常識を、きちんと説明してくれた人が今までいただろうか。ああやっと当たり前のことを言う人が出てきてくれたという安堵の気持ちに、大袈裟ではなく本当に涙がにじんだ。

「派遣斬りはいけない」「正規雇用を増やせ」「値上げで消費者に打撃」・・・マスコミは、企業が雇用者や消費者を踏みつけにして不当に大儲けしているような報道をするが、私はいつも疑問に思っていた。企業に勤めたことがある者としての疑問と、型にはまった企業批判への怒り。派遣や値上げを回避することで生産拠点が海外に移ってしまうことへの危惧。これらの、自分の中でくすぶっていたものを、楡周平氏が代弁してくれている。それも具体例を挙げて、論旨明確に、誰にでもわかりやすく。
楡氏は、現在は作家であるが、企業にしばらく勤めた経験がある。会社の仕組みや仕事の流れをよくご存じだ。派遣や値上げの問題で叩かれがちな、製造や物流、流通など「物」を扱う仕事についても詳しい。物を造ったことも、保管したことも、運んだことも、売ったこともない、テレビのキャスターや新聞記者や評論家や大学教授の安易な発言に、異を唱えている。

私だけでなく、この楡氏の主張に賛同する人々はたくさんいるのではないだろうか。
学生の就職活動について、株への投資について、サラリーマン稼業について・・・企業に勤め様々な困難を乗り越えた人なら、真面目に身の丈にあった暮らしをしている人なら、ほとんどのことに共感できると思う。そして今まで、このような当たり前のことを言う人たちが、マスコミには登場していなかったことに、改めて驚くに違いない。

就職やサラリーマンについて書かれた箇所は、これから就職する学生に、ぜひ読んで欲しい。仕事をするとはどういう事か、何が自分の役にたつのか、社会人とはどんな覚悟が必要か。うまくいかないのは社会のせいだとするマスコミとは全く異なる内容は、学生にとって厳しいように見えるかもしれないが、社会に出たらこの厳しさが待っているのが現実だ。

現在の政治やマスコミの論調では「弱者の視点」というものが重視される。もちろん救済が必要な人達もいる。しかし、甘えや怠けが原因の場合を含めた弱者中心の政策でよいのか。弱者でない多くの人々の生活はどうなるのか。そこが考えられていない。
すこし前に、今の日本に大切なのは国民が「常識マジョリティ」になることだという言葉を聞き、感銘を受けた。マスコミを通して浮世離れした意見ばかり聴いていると、常識がどこにあるかがわからなくなってくる。一人一人がマスコミに惑わされず、常識を取り戻そう。常識とは何だったのか、それを思い出すのにうってつけの一冊である。
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『ジーキル博士とハイド氏』 スティーヴンソン

ジーキル博士とハイド氏 (新潮文庫)ジーキル博士とハイド氏 (新潮文庫)
(1967/02)
スティーヴンソン

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時と場合によって、まるで別人のような言動や行動を取ることを「ジーキルとハイドみたいだ」などというが、実際にこの物語のような異常事態に陥ることはまずない。

人は誰でも一面的でなく、献身的な人でも自分が損をするのは嫌だと思う瞬間があったり、穏やかな人ほど怒ると怖かったりする。そして大抵は、自分でもいろいろな面を持っていることを自覚し、なんとかやりくりしながら生きている。通常「ジーキルとハイドみたいだ」と言われる人でも、自分の中で葛藤しながらやりくりをしているものだ。

ジーキルは、そのやりくりができない性分であったのだろう。良い自分は悪い自分と一緒にいることを許せない。悪い自分は良い自分から行動を制限されるのを嫌がる。自分の多面性を自分で管理し、やりたいときにやりたいことができる環境を作り出そうとしたのだ。

悪い自分を良い自分の自制心で抑えているから何とかなっているバランスを、ジーキルは大きく崩し、取り返しのつかない結末を迎える。しかし、現実の世界ではジーキルのような極端な考えを持つ者はいないから、個性のある名作として読み継がれてきたのだろう。

ところが、現実にはいないと思っていたジーキルのような人物を、私はこの一年余り、報道を通してずっと見てきた。この人、鳩山首相の言動を見聞きする度に、全くジーキルのようだと思っていた。
自分は善人である。人の嫌がることは言わないし、やらない。良い人ならではの耳障りの良い発言をしなければ・・・。そのように、どの方面にも良い自分しか向けることなく何ヶ月も過ごして来て、とうとうバランスを崩し、ハイドの部分にお出まし頂くことになったようだ。
利害関係が対立する案件が山積みの国政において、どの方面にも良い顔をするなど、不可能なことだとわからなかったのだろうか。ジーキルのような私人であるなら、どのような不幸な目に会おうと自業自得だが、公人がそんな妙なポリシーのために国を危うくすることを私は許せない。結果的に国を危うくしたのだから、国民にとっては「良い人」などではなく、せいぜい「人がよい」だけだったのだ。

人は「良い」部分だけで生きていくことはできない。それを目指した途端にどんなことになるか、ジーキルとハイドははっきり教えてくれている。これも今になって「学べは学ぶほどよくわかった」などと言うのだろうか。もっと早くに、せめて政治家になる前に学んでおいて欲しかった。

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