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『心にナイフをしのばせて』 奥野 修司

心にナイフをしのばせて (文春文庫)心にナイフをしのばせて (文春文庫)
(2009/04/10)
奥野 修司

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読み始めて間もなく「やるせない」という感情が湧き出てきて、読み進むにつれてじわじわと「怒り」に変わり、「怒り」が爆発する寸前に深い悲しみと共に読み終えた。唯の読者でもこのような精神的な苦痛を感じてしまう状況に、被害者家族は何十年も置かれ続けてきたことを考え、未だ怒りが収まりきらない。

この本の帯には、こう書いてある。

「高1の息子を無残に殺された母親は、今もなお地獄を生き続けている。一方、同級生の犯人は弁護士として成功していた-」

確かにこの本の内容を短い言葉でわかりやすくは説明してある。しかし本を読んだ後では、「こんなに簡単にまとめてしまっていいの?」と思ってしまう。

母親は、辛いときの記憶を失ってしまうほどのショックを受けた。しかし辛いのは母親だけではない。むしろ著者は、家族を殺されたこと、母親がショックで正常ではなくなってしまったこと、の二つを背負って生きてきた父親と妹の心情を深く掘り下げようとしているように思う。
兄ではなく代わりに自分が殺されれば良かったのだとまで思い詰める妹、普段通りの生活をして家族には泣き言を言わないことが家族崩壊をさせない方法であると耐え続けた父親、その思いを知るとこちらの胸が張り裂けそうになるほどだ。

巻末の解説には、この本は日本の法廷を変えたと書かれている。それまで法曹界では、「被害者」といえば「証拠」の一部でしかなかったという。「被害者の人権」ということが論議され、それが守られるような動きが始まったのも、この本がきっかけであったそうだ。

法曹界にまでそのような衝撃を与えるほど、被害者家族の人生は、あの犯罪によって大きく変わってしまっている。しかし私はこうも感じた。この家族だったから、まだこの程度で済んでいたのかもしれないと。
父親が家族には言えない悲しみを吐き出せる、温かい親戚があり、静かに受け止めて貰えていた。母親が信仰していた宗教も、父親には役立った。
そうして父親が家族の前では毅然としていてくれたから、妹は、どんなに辛く悲しく現実から逃げ出したくても必ず家には帰り、反抗期になっても最後の一線を越える不良にはならなかった。父親が亡くなった後の妹の独白は、何度読んでも涙がこぼれる。

一方、かつての犯人については、言いようのない理不尽さを感じる。単に、犯罪を犯した者が社会的成功を収め、被害者たちより金銭的に豊かな暮らしをしているということに対してだけではない。「心」が犯罪当時と同じく冷え冷えとして無機質なままでも、それには何のペナルティもないということに不条理を感じるのだ。

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