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『病気の魔女と薬の魔女』 岡田 晴恵

病気の魔女と薬の魔女病気の魔女と薬の魔女
(2008/10)
岡田 晴恵

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インド奥地のねっとりした緑色の沼から出て歩くと、後ろから一筋の緑色の水がしもべのよう付いてくるコレラの魔女。
パリのカタコンブ(地下墓地)にネズミたちと住むペストの魔女は、全身に黒紫のあざ、肩にはグルリグルリと動くコブを持っている。
マラリアの魔女は、飛ぶのにほうきは使わない。スカートの中で大量の蚊が羽ばたき、宙に浮かせてくれるからだ。
これらのかつて人間を大量に殺戮した病気の魔女たちを中心に、世界中の病気の魔女が老いも若きも、功績のあった者もしくじった者も、一堂に会する集会がもたれる。

最近はなかなか世界的な伝染病を起こせない。それも薬の魔女アンが青カビからペニシリンという薬を発明したせいである。そろそろ名誉挽回のため、殺戮効果の高い病気を世界的に伝染させねばならない、という目標を掲げて、病気の魔女達が決起した。
しかし、どうやって?
バクテリア族の魔女のコンタギオン(種)は、例のアンが作ったカビの薬に殺されてしまう。
それではウィルス族は?こちらはワクチンの魔女のおかげで人間の体内で増えにくくなっている。

これに対するのは、薬の魔女ファルマ先生、アン先生、その下で修行中の若い魔女ローズ。病気の魔女達の企みを知った先生方は、ローズをワクチンの魔女ワッカ先生の所へ旅立たせる。ローズはワッカ先生ともう一人の年をとったある魔女からの教えと猛勉強と知恵とをもって、病気の魔女達が広めようとしている伝染病を防がなければならない。
その伝染病を振りまこうとしているのは強毒型インフルエンザH5の魔女。
強毒型とは?H5とは?対処法は?

この臨場感溢れるファンタジー小説の作者は、医学博士の岡田晴恵氏。専攻は感染免疫学、ワクチン学、ウィルス学だそうだ。その岡田氏が、新型インフルエンザについての知識を子供達にわかりやすく伝えようと書いたのがこの物語。このような主旨で書かれた本というのは、説明が長くて退屈だったり、こじつけや無理のある筋立てだったりして、物語としての完成度はあまり期待できないと思っていた。ところがこの本は、そのような固定観念を見事に打ち破ってくれた。途中で読み止めることができないほどおもしろく、非常に読み応えのある科学ファンタジー小説となっている。

登場人物は各々が個性的で、しかもその姿や生い立ちは、実際の病気の症状やその歴史に基づいている。
ハラハラドキドキするストーリー展開、魔女の世界の不思議で怪しい雰囲気、健気にがんばる主人公ローズの成長、アンやローズの作るおいしそうなお菓子や料理。
どこをとっても目の離せない物語なのだが、それぞれの逸話に事実や科学の裏付けがあることに驚く。物語の注釈代わりに書かれているコラムの豊富さとその詳しさにも目を見張らせられる。コラムの題名だけ見ても、そのバラエティ豊かさがわかるので、一覧を挙げておこう。

「歴史を動かした病」
「物語に登場する大疫病」
「細菌とウィルス」
「季節のインフルエンザと鳥インフルエンザ、新型インフルエンザ」
「新型インフルエンザH5N1型」
「登場人物のモデルとなった聖女エリザベート」
「ワクチンの働き」
「新型インフルエンザの予防と治療」
「ワクチンの作り方」
「アジュバント」
「新型インフルエンザの3つのワクチン」


魔女の世界に浸りきった私は、作者の岡田晴恵氏も魔女の一人ではないかという考えに取り憑かれた。
薬の魔女?いやいや物語の魔女?
そういえば、岡田氏は本の冒頭でこう述べている。

この新型インフルエンザから、皆さんや皆さんの家族を守って、元気に乗りきるためには、新型インフルエンザとは何?どう予防するの?かしこい行動とは?を知ることが大切なのです。これを知識のワクチンと言います。新型インフルエンザの知識のワクチンを小中学生のみなさんにも楽しく打ってもらうために、私はこの本を書きました。ウィルス学者の説明では、難しく固い話になってしまいがちですから、私の友達の魔女達にお話しを語るお手伝いをしてもらうことにしました。

そうか!
岡田氏は、ワクチンの魔女ワッカ先生の門下生で、ローズのようにワクチンの修行をするうちに、「知識のワクチン」を広めるという技術を会得したのだわ!

この本によると、新型インフルエンザのワクチンはまだ数少なく、今はまだ日本では全国民が使えるわけではないそうだ。しかし知識のワクチンなら、今からでも手に入れることができる。子供はもちろん、大人にも有効なこの知識のワクチンを、楽しく打っておくことを強くお薦めしたい。


※岡田晴恵氏が小学生の頃出会い、魔女やドイツ(氏の留学先)に魅了されるきっかけとなったというオトフリート・プロイスラーの『小さい魔女』。こちらも若い小さい魔女が活躍する愉快な物語です。
魔女の世界の雰囲気を『小さい魔女』と共有させながらも、専門知識を駆使して独自の世界を書き上げた岡田氏の文学的才能はすばらしいと思いました。


※前回紹介した新型インフルエンザの本
『パンデミック・フルー襲来-これが新型インフルエンザの脅威だ』

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『パンデミック・フルー襲来-これが新型インフルエンザの脅威だ』 木村 良一

パンデミック・フルー襲来-これが新型インフルエンザの脅威だ- (扶桑社新書)パンデミック・フルー襲来-これが新型インフルエンザの脅威だ- (扶桑社新書)
(2009/02/27)
木村 良一

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国内でアライグマが鳥インフルエンザに感染しているのが初めて見つかったという。以前なら、鳥が感染したのもアライグマが感染したのも、同じようなことだと捉えていただろう。鳥類でなく哺乳類が感染したことにニュース性があるのだろう、アライグマも豚と同じように鳥インフルエンザにかかる可能性のある動物なのだろうか、など、さまざまなことを考えるようになったのは、この本を読んだからである。

パンデミックとは感染症の世界的な大流行のこと。フルーはインフルエンザ。つまりこの本は新型インフルエンザの大流行に警鐘を鳴らす「小説」である。
「小説???」というのが本書を知った私の最初の印象だ。著者は新聞記者で、題材は社会的な関心事となっている新型インフルエンザ、そして極めつけにこれは新書版なのだ。新書版で小説とは珍しい。いったいどんな内容なのか、また小説としての完成度や読みやすさはどうなっているのか、いろいろな意味での興味が沸いてきて、読んでみることにした。

主人公は新聞社の社会部記者。今から24年前の横浜で、祖父・父親・息子の三人が次々と「変死」したという情報を部下が仕入れてくる。同時期に、養鶏場の鳥が大量死していた。しかし養鶏業界にとって「鳥インフルエンザ」は、決して珍しい病気ではなかった。人間の変死と鳥の大量死はどこかに接点があるのか・・・。
新聞記者は、この不思議な事件を探っていることを他社に悟られないよう取材し、上司や部下と共に、スクープのタイミングを図っていく。

取材に駆け回る場所が横浜・湘南という洒落た所であり、ライバル記者は魅力的な女性記者であるので、事件ものというより、軽やかな恋愛小説でも読んでいるような気分になってくる。重いテーマだと構えていたが、想像していたような、目をそむけたくなるような描写や親しい人との別れなどは皆無といってよい。肩の力を抜いて読んでいるうちに、取材によって得られる新型インフルエンザに関する知識を、読者である自分もいつのまにか習得している。

取材合戦やある人物の入院など山場はあるのだが、心を揺さぶるとか涙が溢れるといった場面は全くない。著者が意識しての事かどうかはわからないが、読者のパニックを避けようとした結果ではないかと感じた。小説の中では、新型インフルエンザに関する新聞記事を書くときに、主人公も上司も、社会にパニックが起こらないようにすることを重視していた。この本を書くに当たっても、同じような意識が働いたのではないかと思われる。しかしそのような筆致のおかげで、科学的な知識を正確に伝えようとしていることがわかり、また必要以上の心配や大騒ぎよりも先にすべきことがあるのだということに気づくことができたような気がする。
著者の木村良一氏は、あとがきで

新型インフルエンザに対しては、国民ひとりひとりがその脅威を正確に認識して冷静に行動することが何よりも大切である。本書によって新型インフルエンザの理解が進み、その被害を食い止めることができたらこれほどうれしいことはない。

と書いている。その目的のためには、読者を感情的にしてはならないのだ。そして誰にでも読みやすくなければならない。小説という形で、重くなりすぎず、しかし専門知識をわかりやすく書くというこの形式は、目的に見合ったものではないかと感じた。

また同じくあとがきには、こうも書かれている

なお、本書で触れた新型インフルエンザが発生したときの対処法や予防法は、実際に推奨されているものである。参考にして欲しい。自分と家族を守るには正確な情報の把握と適切な対処が重要なのだ。

「マスクをした方がよい。」「やはりうがい手洗いは効果的。」など、これまでに聞いていたことでも、内心ではそんなことで防げるのかと半信半疑だった。
一方、「患者がでた地域を封鎖するなんて大袈裟ではないか。実際は普段通り会社に行ったりするのではないか。」と思っていた。
どんな考えが正しくて、どんな考えが間違っているか、この小説で確認するだけでも少し安心できる。

「新型インフルエンザ」について知っているようだけどあまり知らないなぁ、でも難しそうできっとわからないや~、あまり熱心に勉強する気もないし・・・、という方には、気軽に読めて最低限のことを知ることができる本書をお薦めしたい。実のところ、私自身が、鳥の感染とアライグマの感染の違いもわからない、そういう読者だったのだ。

※次回は、やはり新型インフルエンザを小説という形で教えてくれる児童書『病気の魔女と薬の魔女』を紹介する予定です。→紹介しました。おもしろくて役に立つ「知識のワクチン」を是非!

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