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『君たちはどう生きるか』 吉野 源三郎

君たちはどう生きるか (岩波文庫)君たちはどう生きるか (岩波文庫)
(1982/01)
吉野 源三郎

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前回に引き続き、卒業や入学の贈り物となりそうな本を紹介したい。
今回は小学校を卒業して中学に入学する時にはどのような本が良いか考えてみた。「そうだ、ちょうどこの年頃にぴったりのあの本だ。」と思い出したのが『君たちはどう生きるか』。しかし書かれたのは戦前だし、私もコペル君の名前くらいしか覚えていない。これを機会に再読してみた。

改めて『君たちはどう生きるか』を読んでみると、大人になった今その真の大切さがわかることがたくさん書かれている。そしてそれがかなり深い内容であるにも拘わらず、中学生でも興味を持って読める物語仕立てになっていることに、よくできていると感心する。

主人公は中学二年生のコペル君。本名は本田潤一だが、故あって叔父さんからコペル君というあだ名を頂戴している。仲良しの友達は、立派なお屋敷に住む水谷君、ガッチンというあだ名の頑固だけれど正義感の強い北見君、豆腐屋の息子で心優しい浦川君。
彼らとの交友を中心として、日々の生活の中でコペル君が考えたことや起こった事件について、コペル君の叔父さんがコペル君に語りかけるようにノートをしたためる。
コペル君のお父さんが亡くなる直前に、
「わたしは、あれに、立派な男になって貰いたいと思うよ。人間として立派なものにだね。」
と叔父さんにコペル君のことを頼んでいったからだ。

ここに出てくる出来事は身近に事ばかり。
例えば、コペル君が豆腐屋の浦川君の家に行ったら、浦川君が器用な手つきで油揚げを揚げていて驚いた。そんな些細な出来事についても、叔父さんはノートにぎっしりとそこから学び考えるべきことを書いてゆく。世の中にある貧富の差のこと、貧富とは関係のない人間の価値のこと、労働や生産の尊さ、今はまだ消費者でしかないコペル君が持たねばならぬ感謝の気持ち、そして今後どのような心掛けで生きなくてはならないか・・・。

著者の吉野源三郎氏は、戦後の活動から社会主義的な思想をもつとされているが、当世風の弱者の権利ばかりを訴えたり悪平等を推し進めるような社会主義者とは毛色が違うように思う。弱者を慮りながらも、弱者に同情するばかりでは駄目だということ、恵まれた人には恵まれた人にしかできない使命があるということ、弱者の側は弱者であることに卑屈になったり甘んじてはならないということなども闊達に書いている。

全編を通して、一定の思想に囚われているようなところが感じられず、それは、ナポレオンを題材にした章に鮮明だ。
ナポレオンに人々が惹きつけられるのはなぜか。どんなところが素晴らしかったか。それは活動力だろう。
しかしその活動力で成し遂げたことは、全て素晴らしいことだったのか。素晴らしかったことも、素晴らしくなかったこともある。
それがわかったところで、改めてナポレオンから素晴らしい部分をうんと学んでいこう。
というように、是々非々の姿勢で解説していく。この時の結論はこんなふうだ。

君も大人になってゆくと、よい心がけをもっていながら、弱いばかりにその心がけを生かし切れないでいる、小さな善人がどんなに多いかということを、おいおいに知って来るだろう。世間には、悪い人ではないが、弱いばかりに、自分にも他人にも余計な不幸を招いている人が決して少なくない。人類の進歩と結びつかない英雄的精神も空しいが、英雄的な気魄を欠いた善良さも、同じように空しいことが多いのだ。

この「善人」の捉え方は、思想的には反対の側にいると思われる山本夏彦氏の考え方に似ていると、非常におもしろく感じた。

コペル君の最大の窮地は、雪の日にやってくる。上級生に目を付けられ、雪の中に倒される北見君を守ることに加われず、酷い自己嫌悪に陥ってしまう。
ここでは、普通の道徳の教科書のように本当は守るべきだったということや北見君や仲間への謝罪のことも書かれているのだが、コペル君がこの事件から学ぶことはさらに深く、大事な事柄だったのだ。
母親からは後悔によって知ることの大切さを学び、叔父さんは哲学者の言葉を交えて人間にとっての「悲しみ」や「痛み」の本当の意味を綴ってくれる。「痛み」は体の不調を教えてくれる有り難いものだとした後で、叔父さんはこのように続ける。

同じように、心に感じる苦しみやつらさは人間が人間として正常な状態にいないことから生じて、そのことを僕たちに知らせてくれるものだ。そして僕たちは、その苦痛のおかげで、人間が本来どういうものであるべきかということを、しっかりと心に捉えることができる。

こうして取り出しているときりがないほど、「どう生きるか」のヒントがたくさん書かれている。
将来人の上に立つような人にも、豊かな人にも、貧しい人にも、平凡な人にも、きっと役立つことが書かれている。
しかし、それが実際に役立って人生に影響を与えるかどうかは「君たち」次第、というのがこの本の身上である。
でもまずは、戦前の中学生の友情物語を楽しもうというつもりででも、手にとってみて欲しい。古い本だからと忘れられていては勿体ない内容だ。





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『夏目漱石 (21世紀の日本人へ)』 夏目 漱石

夏目漱石 (21世紀の日本人へ)夏目漱石 (21世紀の日本人へ)
(1998/12)
夏目 漱石

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最近、「贈り物 本」というキーワードで検索をして、こちらのブログに訪れてくださる方が多い。毎年この時期になると増えてくる検索ワードだ。恐らく、卒業・入学祝い、就職祝いなどの本をお探しなのだろう。

はて、私ならどのような本を贈るだろう?
対象の年齢はわからないから、絵本から大人向けの本をいろいろと思い出してみる。その中で、この本なら中学校卒業から就職くらいまでの幅広い年齢層に薦められる内容であるし、『二十一世紀の日本人へ』というシリーズ名も、新天地へ一歩踏み出す若者達にふさわしいと考え、紹介することにした。

これは夏目漱石の講演をまとめたものだ。漱石は講演のうまさに定評があったそうだが、このような講演録を読むだけでも、落語のようなユーモアと勢いがあり、人を惹きつけて飽きさせない講演だったのだろうと想像がつく。

この中で恐らく最も有名な『私の個人主義』は、若者達への訓辞としてすばらしく、多くの現代の若者にも読んで欲しいと思える内容だ。

『私の個人主義』では、大きく分けて二つのことを話しており、一つは自分が大学を卒業する頃の不安な思いをどう克服したかを語っている。

私はこの世に生まれた以上何かしなければならん、といって何をして好いか少しも見当が付かない。私はちょうど霧の中に閉じこめられた孤独な人間のように発ち竦んでしまったのです。

文豪も自分と同じような悩みを抱えていたことにほっとする人も多いのではないだろうか。
そのような煩悶の日々であったが、自分の専門分野である「文学」について突き詰めて考えていって、ある時「突き抜けた」という。西洋人の評価を鵜呑みにして「とうていわが所有とも血とも肉ともいわれない、よそよそしいものを我物顔でしゃべって歩く」ようなことをしていたことが、不安を招いていたとわかったのだ。

今までまったく他人本位で、根のない萍のように、そこいらをでたらめに漂っていたから、だめであったという事にようやく気が付いたのです。

そして「他人本位」をやめて「自己本位」で行こうと決心する。漱石のいう「自己本位」とは、「自分勝手」や「我が儘」とは違い、自分で考え、自分の価値観を持つということである。

私はこの自己本位という言葉を自分の手に握ってから大変強くなりました。

そして若者達に、自分と同じように煩悶が起こったら、「ああ、ここにおれの進むべき道があった!ようやく掘り当てた!」と、何かに打ち当たるまでいくことが必要で、そうすると容易に打ち壊されない自信ができてくると助言している。

さて、もう一つは、学習院での講話であることから、権力や金力を持つ者はどうあるべきかを語っている。

第一に自己の個性の発展を仕遂げようと思うならば、同時に他人の個性も尊重しなければならないという事。第二に自己の所有している権力を使用しようと思うならば、それに付随している義務というものを心得なければならないという事。第三に自己の金力を示そうと願うなら、それに伴う責任を重んじなければならないという事。

上記は、やや西洋風の整理の仕方であるように思うので、より日本人にわかりやすい部分も、内容は重複するが抜粋しておこう。ちなみに「三者」「三つ」とあるのは、「個性」「権力」「金力」のことである。

この三者を自由に享け楽しむためには、その三つのものの背景にあるべき人格の支配を受ける必要が起こって来るというのです。もし人格のないものが無闇に個性を発展しようとすると、他を妨害する、権力を用いようとすると、濫用に流れる、金力を使おうとすれば、社会の腐敗をもたらす。ずいぶん危険な現象を呈するに至るのです。そうしてこの三つのものは、あなたがたが将来においてもっとも接近しやすいものであるから、あなたはどうしても人格のある立派な人間になっておかなくてはならないだろうと思いました。

この本を私は検索で訪れてくる方々へのサービスのつもりで紹介し始めたが、この部分を引用しているうちに、この春から難関校へ通うことになるエリート候補達、社会人となってエリートの第一歩を踏み出す人達には、ぜひとも読んでおいて貰いたくなった。頭が良くても人格が伴わない人々が三つのもの(個性、権力、金力)を握ったら、どうなるか。今でも実際そういう例があるのではないか?将来のエリート達には、修養を積んで貰って、上手に個性を発揮し権力やお金を有効に使ってもらわなければ困るのだ。

「個人主義」と「国家主義」の関係についても、偏りのない、納得のいく説明をしていて、これはエリートであろうがなかろうが、国民皆がわかっておいた方が良いことではないかと思う。

ここで採り上げなかった『現代日本の開化』『おはなし』『道楽と職業』についても、本当は紹介したい内容が盛りだくさんだ。「ぴょいぴょいと飛んで行く」ような日本の近代化とその軽薄さについて、近代化による職業や人間らしさについて、作家の役割について・・・、前代未聞の急速な近代化を目の当たりにした漱石の感受性と分析力に感嘆する。

堅苦しくなく、でも知的で、今後の生き方に役立つ、こんな本を、若者達の人生の節目に贈ってあげたらいかがだろうか。


※こちらでも読めます。↓

 


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