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『木のいのち木のこころ―天・地・人』 西岡 常一/小川 三夫/塩野米松

木のいのち木のこころ―天・地・人 (新潮文庫)木のいのち木のこころ―天・地・人 (新潮文庫)
(2005/07)
西岡 常一小川 三夫

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『木の教え』という本を読んで感銘を受けて以来、法隆寺最後の宮大工である西岡常一氏のことがとても気になっていた。
今回紹介する『木のいのち木のこころ〈天・地・人〉』は、もともとは三冊の本だったものを合わせたものだそうで、分厚い一冊だが一気に読んでしまった。それぞれ『木の教え』と同じく塩野米松氏の聞き書きで構成されており、第一章は西岡氏、第二章はたった一人の内弟子である小川三夫氏、第三章は小川氏の設立した宮大工集団「鵤工舎(いかるがこうしゃ)」の弟子たちが、語っている。
西岡氏には「法隆寺最後の宮大工」という肩書きがつくので、もう口伝や技術が継承されていないのかと思ったら、法隆寺専属の宮大工としては最後ということらしく、こうして脈々と千年以上前からの伝承が今も繋がっていることにほっとした。

『木の教え』では、主に木の癖、木の扱い方、木造建築や伝統的手法に対する考え方などが書かれていたが、そこには「木も人も同じ」という言葉がよく出てきていた。
今回の『木のいのち木のこころ〈天・地・人〉』にも、もちろん「木」についてのことも語られているが、「人」についてのエピソードが多い。また三部の構成によって、同じ「人」がさまざまな視点で語られているのが非常におもしろいと感じた。

「木も人も同じ」ということを簡単に説明すれば、こういうことだ。木はその種類や植わっていた環境によって、さまざまな癖がある。堅かったり柔らかかったり、真っ直ぐだったり曲がっていたり、時間が経っても変形しなかったり変形したり・・・。木造建築には、同じ性質の木を使うよりも、癖の強い木をうまく組み合わせていくことで、より頑強なよい建築物ができる。それと同じように、人間も、個性を生かして使うと、癖のある人間ほどよい仕事をしたり、よいチームワークができるものだ。この本では、その実例が豊富に語られている。

最近の日本では、個性尊重が行き過ぎて自分勝手で我が儘な人間が増えていると言われることがある。それには概ね賛同していたのだが、外国から日本に帰ってみると、画一的であることの弊害や、せっかくの個性を活かしていないもったいなさを感じることもよくあった。とはいっても、個性を伸ばしながら自分勝手でない人間を育てるなどということは不可能なのかもしれないという、諦めのような気持ちも持っていた。

しかし、この本を読んで、個性の活かし方とはこういうことか、昔からの徒弟制度の中に個性を伸ばすヒントがあるかもしれないと思うようになった。

大工さんの仕事は成果が目に見える。
鵤工舎は、西岡氏の「木も人も癖を活かす」という思想の下、「好きなように自由にやりなさい。」という空気に満ちている。ところが出来上がったものは正直で、技術があるかどうかは一目瞭然だ。たとえば、最も基本となる道具の「研ぎ」、ここで全ての弟子たちが自分の実力を思い知らされる。たとえ余所で修行をしてきた人でも、先輩たちの手入れ尽くされた道具を見ると、自分はまだまだだと感じ、毎晩必死に「研ぎ」の練習を重ねる。その手法は自由だ。「こうしなさい。」「ああしなさい。」とは言われない。研ぎ方も、練習方法も、練習時間の長さや頻度も、その人の個性にあったやり方があるからだ。つまり、やり方は自由だけれど、その結果には皆の厳しい目が光っているというわけだ。やり方も結果も自由に個性的にどうぞ、ではならないということである。

この「学んでいく過程は自由」という考え方の中で、なるほどと思ったのが、学びの早さについてである。
西岡氏によれば、学ぶのに時間がかかればかかるほどよいそうだ。打てば響くようにすぐわかるのがよいのではないと。わからない人は、昔の建造物を見に行ってよくよく観察してきたり、何度も何度も木を削って体に覚えさせたり、懸命に考えて工夫をしたりする。自分の頭で考えさせるために、わざと教えないのだそうだ。時間をかけて学ぶと本当の実力がつき、応用力もつくという。確かに、教えられたことをすぐに理解して、いかに速くいかにたくさん覚えるかという学び方では、予想外のことや初めてのことに対処する力は養われないような気がする。
現代社会は、効率ばかりが求められているが、それによって蔑ろにされ捨てられている大切なことが、どんなにたくさんあることか・・・。

木と同じように、人間もその癖を活かすことが大切だという見本のような大工さんの話も載っている。
ご本人のインタビューを見ると、大工さんにしてはずいぶん温和しそうだし、さまざまなことに消極的で、あまり向上心も強くないようで、端から見ていて「大丈夫かな?」と思うような若者が、鵤工舎には欠かせない重要な人物だったのだ。親方(小川氏)の話からも、同僚、後輩たちからの話からも、それがよくわかる。

西岡氏の本を読んで、鵤工舎に入ってきたという若者が何人もいる。「ここなら、自分を活かして貰える。」と思った人もいるのではないだろうか。
宮大工の仕事はちょっと特殊で(民家の大工さんとも違うらしい)、全ての職場でこのように人を育てるというのは無理かもしれないが、学校教育や家庭教育の中では参考にできることがたくさんある。
詳細は本を読んでいただきたいが、育てたい人や子供を、育てる側が「よく見る」ということが最も大事なのだと思う。そのために、鵤工舎では共同生活を重視している。「自由にやってごらん」と言いながら、放任するのではなく、目配り、気配り、心配りは怠らないことが、個性を伸ばす教育のコツなのではないだろうか。
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